ウェルビーイングとは?
意味や定義、注目を集める背景について解説
2024.06.10
ウェルビーイングとは、個人の心身と社会が共によい状態であることを意味する言葉です。
近年企業は、この実現のために多様な取り組みを行っています。本記事では、ウェルビーイングの定義や注目される背景、実現するメリット、女性に焦点を当てた取り組みについて解説します。
ウェルビーイングが注目される社会的な背景
2-1. 幸福度の向上が求められている
2-2. 働き方改革の推進につながる
2-3. 価値観が多様化している
2-4. SDGsの目標の1つである
2-5. 新型コロナウイルス感染症の流行により生活様式が変化した
ウェルビーイングを実現することのメリット
3-1. 生産性や顧客満足度などの向上
3-2. 人手不足の解消・定着率の向上
3-3. 良好な人間関係の構築
3-4. 企業価値やブランドの向上
ウェルビーイングを実現するために押さえたい5つの要素
4-1. ギャラップ社が提示する5つの要素
4-2. PERMA理論における5つの要素
ウェルビーイング実現のための取り組み
5-1. コミュニケーション活発化のための機会やスペースを設ける
5-2. 肉体・身体的な健康増進に向けた取り組みを行う
5-3. 労働環境の見直しと改善を行う
5-4. 企業理念や展望を共有する
女性にとってのウェルビーイング実現に向けた取り組み
6-1. 女性のキャリアアップをサポート
6-2. 健康のための知識を得る
6-3. 妊娠・出産時に必要な制度を使える環境の整備
6-4. ハラスメントに対する社内ポリシーやルールを明確化
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングとは、よい(well)+状態(being)という言葉からなり、簡単にいうと、個人の心身と社会が共によい状態であることを意味します。
この言葉は、1946年のWHO(世界保健機関)設立の際に初めて登場し、健康とは何かを定義付けしたなかで、以下のように「満たされた状態」という意味で使われています。「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」※1
時を経て近年、WHOは「health promotion Glossary 2021(ヘルスプロモーション用語集2021)」のなかで、Wellbeingを以下のように定義付けています。
「Well-being(幸福)とは、個人や社会が経験するポジティブな状態のことである。健康と同様、日常生活の資源であり、社会的、経済的、環境的条件によって決定される。」
" 「Well-being is a positive state experienced by individuals and societies. Similar to health, it is a resource for daily life and is determined by social, economic and environmental conditions.」" ※2
引用:WHO公式サイト (https://www.who.int/publications/i/item/9789240038349)
ウェルビーイングに似た言葉でハピネス(happiness)という言葉もありますが、happinessは一時的な幸福の感情を指します。一方、ウェルビーイングは、よい状態を表すため、持続的という面で異なるでしょう。
またウェルネス(wellness)という言葉は、身体が健やかで、元気であることを指します。ウェルビーイングは身体的、精神的、社会的によい状態であることを指し、より広い意味での幸福な状態を指しているといえるでしょう。
ウェルビーイングが注目される社会的な背景
ウェルビーイングの言葉が持つ意味について解説してきました。
なぜ今、ウェルビーイングという概念が注目を集めているのでしょうか?続いて社会的な背景を見ていきます。
2-1. 幸福度の向上が求められている
国連のSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)は、毎年3月に発行する世界幸福度報告(World Happiness Report)のなかで、世界の幸福度ランキングを発表しています。2024年版では、世界143の国・地域を対象に調査が行われ、日本は51位という結果でした。前年の47位から4つ順位を下げ、2012年の調査開始以降44位~62位と低く推移しています。※3
このランキングは、ギャラップ社(アメリカの世論調査研究所)が全世界に対して行う世論調査のデータをもとにしたもので、各国の約1,000人に「最近の生活の満足度」を0から10までの段階で回答してもらい「幸福度」を測っています。
日本の幸福度ランキング低水準で推移していますが、名目GDP(国内総生産)は世界4位※4(2023年:591兆9,000億円)※5と決して低くはありません。経済活動状況が幸福度に直結していないことが課題として挙げられるでしょう。こうしたことから、日本の幸福度の向上に意識が向き、真の幸福を求めるウェルビーイングの概念に注目が集まっているといえます。
2-2. 働き方改革の推進につながる
近年企業では、リモートワークやAIの導入などにより、労働環境が変化するなかで、長時間労働の是正や、有給休暇取得の義務化、女性就労者の雇用拡大など、多くの変革が行われています。ウェルビーイングが実現されれば、ワークライフバランスが整い、働き方改革の推進にもつながります。
2-3. 価値観が多様化している
ダイバーシティ(多様性)が重要視されるようになってきていることも、ウェルビーイングが注目される背景にあるでしょう。全ての人が心身と社会的な健康を実現するためには、ウェルビーイングの実現は不可欠です。
2-4. SDGsの目標の1つである
ウェルビーイングという言葉は、国際目標であるSDGsの3つ目の指標に登場します。「Good Health and Well-Being(すべての人に健康と福祉を)」とあり、ここではウェルビーイングを福祉と訳していることが分かるでしょう。日本語訳だけを見ると、社会福祉の印象を持ちますが、「地球上の誰一人取り残さない」というSDGsの目的から考えると、社会・経済・環境面を満たしたウェルビーイング(よい状態)を目指すものと捉えられます。
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかにある国際目標です。よりよい社会を実現するために、世界が1つとなって掲げた目標に記されたことも、ウェルビーイングが注目されるようになった背景にあるでしょう。※6
2-5. 新型コロナウイルス感染症の流行により生活様式が変化した
2019年12月に端を発した、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、人々の働き方や生活様式は大きく変化しました。感染防止のために人との物理的な距離を取ったり、外出や、密集・密接・密閉を避けたりといった環境を強いられ、孤独感やストレスを抱えた状況は記憶に新しいでしょう。人々はそれまでの生き方や働き方、食事、運動習慣といった生活様式を見直し、自分自身の心身の健康に向き合う機会となりました。
このように生活様式が変化した後も、継続的に心身共に健康であることが求められ、ウェルビーイングに注目が集まっています。
ウェルビーイングを実現することのメリット
ここでは企業がウェルビーイングを実現することによるメリットを解説します。
3-1. 生産性や顧客満足度などの向上
従業員一人ひとりが精神的、肉体的、社会的健康を満たし、ウェルビーイングを実現できれば、働く意欲が湧くでしょう。従業員の幸福度の向上は、仕事の質の向上、ひいては生産性の向上へとつながります。顧客へのサービスも向上し、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
3-3. 良好な人間関係の構築
ウェルビーイングが実現されることは、社会的にも好ましい状態であり、人間関係が良好になることが期待されます。人々は性別や年齢、国籍を越えて、互いの心、身体についてより理解を深めることで良好な人間関係を構築できます。女性の生理休暇や男性の育児休暇についても理解を得られるようになるでしょう。
3-4. 企業価値やブランドの向上
ウェルビーイングの実現は、企業のブランドイメージ構築にも寄与します。近年、企業活動には収益だけでなく、社会貢献や労働環境整備といった責任も求められるようになりました。ESG投資が活発化している背景も踏まえると、ウェルビーイングを実現することが企業価値やブランドの向上につながるといえるでしょう。ESG投資とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に配慮している企業に投資することをいいます。
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ウェルビーイングを実現するために押さえたい5つの要素
ウェルビーイングは、個人の心身と社会が共によい状態であることをいいますが、よい状態が何を指すかは、一人ひとり感じ方はさまざまです。
ここでは、ウェルビーイングを構成する5つの要素について解説するので、ウェルビーイングを実現するための重要な要素をみていきましょう。提唱されている2つの定義を紹介します。
4-1. ギャラップ社が提示する5つの要素
世界幸福度調査にデータを提供しているギャラップ社の発表によると、ウェルビーイングは5つの要素「Social」「Physical」「Career」「Financial」「Community」から測定することが可能とあります。5つの要素とは以下です。
Social Well-Being:暮らしのなかで深い人間関係や愛情を持てているか
Physical Well-Being:心身共に健康で、自分のやりたいことを成し遂げる十分なエネルギーがあるか
Career Well-Being:仕事に限らず、自分の取り組んでいることに夢中に楽しめているか
Financial Well-Being:効率的に管理し経済的に満足できているかCommunity Well-Being: 自分の暮らす地域とかかわりがあると感じられるか ※7
4-2. PERMA理論における5つの要素
もう1つの見方はPERMA理論です。アメリカの心理学者マーティン・セリグマンが、ウェルビーイングを実現するためのモデルとして考案したもので、人は以下の5つの要素を満たしていると、幸せでいられるとしています。
・Positive Emotion(ポジティブな感情)
・Engagement(何かへの没頭)
・Relationship(人とのよい関係)
・Meaning and Purpose(人生の意義や目的)
・Achievement/ Accomplish(達成)
上記5つの頭文字を取って「PERMA」と呼びます。※8
ウェルビーイング実現のための取り組み
企業がウェルビーイングを実現するにはどのような方法があるのかを解説しましょう。
5-1. コミュニケーション活発化のための機会やスペースを設ける
ウェルビーイングの実現には社内間での活発なコミュニケーションが必要です。
お互いの価値観や考えを共有し、信頼が生まれると人間関係が良好になり、情報共有や意思疎通が円滑になります。そうすると、人間関係のみならず、仕事の悩みが発生しにくい効果があるためです。
社内での活発なコミュニケーション実現のためには、研修やワークショップなどの機会を設けたり、従業員同士が自然に交流できるスペースを用意したりするとよいでしょう。
5-2. 肉体・身体的な健康増進に向けた取り組みを行う
ウェルビーイングの実現のためには、身体的・精神的な健康も必要不可欠です。企業内で健康診断や予防接種を実施することに加えて、産業医への相談窓口の設置などを行うとよいでしょう。
特に女性については、男性よりもストレスを感じているという背景もあります。厚生労働省が行った国民生活基礎調査によると、日常生活での悩みやストレスの有無について「ある」46.5%、「ない」42.6%となっており、悩みやストレスがある人の性別の割合は、男性42.4%、女性50.3%という結果でした。
これらのことから、企業の労働環境の改善においては、メンタルヘルスや精神面でのサポートも重要といえます。相談しやすい環境づくりやメンタルヘルス関連の研修会実施など、企業が率先してメンタルヘルスのサポートを行うことで、従業員は公私共に幸福な生活を実現できるようになるでしょう。
5-3. 労働環境の見直しと改善を行う
前述した働き方改革のように、労働環境の見直しはウェルビーイングの実現において重要な要素です。働き方改革が目指す、従業員の一人ひとりの事情に合わせた多様な働き方の実現は、ウェルビーイングが意味する身体的、精神的、社会的によい状態の実現にもつながります。
長時間労働の是正や、リモートワークの実施、休暇制度や育児休業制度は満足のいくものかなど、ワークライフバランスを意識した労働環境の改善が求められるでしょう。
5-4. 企業理念や展望を共有する
現代は多様性の時代です。多種多様な人材が1つの組織で働くなか、個人の心身と社会が共によい状態を目指すには、従業員が会社の理念や将来の展望を理解し、納得することが基盤となります。企業のビジョンを明らかにして浸透させ、同じ方向に進んでいくようになれば、従業員はいきいきと働き、会社に愛着を持ち、幸福感を得られるでしょう。
女性にとってのウェルビーイング実現に向けた取り組み
ここまでウェルビーイングのメリットや実現について述べてきましたが、ウェルビーイング実現のためには女性特有の課題も多いでしょう。以下では女性にとってのウェルビーイング実現に向けて必要な取り組みについて紹介します。
6-1. 女性のキャリアアップをサポート
結婚、出産の前段階でキャリアアップの志向が醸成されれば、意欲的にスキルアップを目指す女性が増えるでしょう。研修や勉強会への参加を促したり、責任のある仕事を任せたりするなどの取り組みが大切です。また、女性の管理職が増えることで、女性社員はワークスタイルや今後のキャリアについての相談がしやすくなるという効果があり、女性のキャリアアップにつながるといえます。
6-2. 健康のための知識を得る
ウェルビーイング実現の1つの要素として、健康であることが大切です。健康リテラシーを高めることで、心身の健康に敏感になり、自分の健康状態を把握できます。自分の体調不良がどこから来ているのか、どう対処すれば改善されるのかという対処法を多く備えておくことが大切でしょう。
6-3. 妊娠・出産時に必要な制度を使える環境の整備
女性にとってのウェルビーイングを実現するには、産前産後休業、育児休業制度などの環境整備が求められます。
取得する体制は整ってきたといえますが、実際に休業を取得しやすい環境かどうかは別の問題です。
現在、育児休業の規定がある事業所の割合は多く、事業所規模30人以上では95.0%を占めています。
一方で、令和2年に日本能率協会総合研究所が行った調査において、妊娠・出産を機に退職した理由を見ると、「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさでやめた」という回答が41.5%と多くを占めます。その声を詳しく見ていくと「勤務先に育児との両立を支援する雰囲気がなかった」「制度は整備されていたが、勤務先で短時間勤務制度や残業を免除する制度などの両立できる働き方の制度を利用できそうになかった(できなかった)」など、制度はあっても、利用できる雰囲気がないという状況が浮き彫りになってきます。※11
制度がうまく活用されていない場合は、現場の風土やニーズに応えた制度になっているか、今一度見直す必要があるでしょう。
6-4. ハラスメントに対する社内ポリシーやルールを明確化
都道府県労働局雇用均等室に寄せられたセクシャルハラスメント相談件数のうち約6割は女性労働者というデータがあります。社内のポリシーやルールを明確にすることで従業員が安心して働けるようにすることが重要でしょう。※12
まとめ
ここまでウェルビーイングについて解説してきました。ウェルビーイングの実現は社会的に求められており、国や企業で大きく注目されています。世界中の人が満足のいく幸せな暮らしを送るためには、ウェルビーイングの実現が不可欠といえるかもしれませんね。
※1 出典「世界保健機関(WHO)憲章とは」日本WHO協会
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/
(最終確認:2024年3月29日)
※2 出典「Health Promotion Glossary of Terms 2021(ヘルスプロモーション用語集2021)」世界保健機関(WHO)https://www.who.int/publications/i/item/9789240038349
(最終確認:2024年3月29日)
※3 出典「World Happiness Report(世界幸福度報告)」SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)https://worldhappiness.report/ed/2024/happiness-of-the-younger-the-older-and-those-in-between/#ranking-of-happiness-2021-2023
(最終確認:2024年3月29日)
※4 出典「NHK NEWS WEB・日本の去年1年間の名目GDP ドイツに抜かれ世界4位に後退」NHK(2024年2月15日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240215/k10014358471000.html
(最終確認:2024年3月29日)
※5 出典「国民経済計算(GDP統計)」内閣府
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
(最終確認:2024年3月29日)
※6 出典「JAPAN SDGs Action Platform」(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf
(最終確認:2024年3月29日)
※7 出典「Your Career Well-Being and Your Identity」(ギャラップ)
https://news.gallup.com/businessjournal/127034/career-wellbeing-identity.aspx(最終確認:2024年3月29日)
※8 出典「ポジティブ心理学とは」(一般社団法人 日本ポジティブ心理学協会)
https://www.jppanetwork.org/what-is-positivepsychology
(最終確認:2024年3月29日)
※9 出典「平成22年国民生活基礎調査の概況」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/3-3.html
(最終確認:2024年3月29日)
※10 出典「令和3年度雇用均等基本調査」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf
(最終確認:2024年3月29日)
※11 出典「育児・介護休業法の改正について」厚生労働省(2022年11月18日更新)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf
(最終確認:2024年3月29日)
※12 出典「男女共同参画白書 平成27年版」内閣府男女共同参画局https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h27/zentai/html/honpen/b1_s04_05.html
(最終確認:2024年3月29日)
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