健康経営とは?
事例やメリット、認定制度を分かりやすく解説

2024.06.10


「人生100年時代」という言葉ができるほど、近年人間の寿命は伸びており、ライフスタイルや働き方の多様化は目まぐるしいものです。そのような現代社会を生きていくなかで、人々の健康への関心も高まっているといえます。企業と深いかかわりのある健康経営®とは、一体どのようなものでしょうか?この記事では健康経営の意味や注目される理由、メリットなどを分かりやすく徹底解説するので、ぜひ最後までお読みください。

 健康経営とは? 

健康経営とは、簡単にいうと企業が経営的な考えで雇用者の健康を管理することです。企業が掲げる理念をベースとした長期的な観点での取り組みであり、ゴールは雇用者の健康を気遣うことだけではありません。

つまり健康経営とは、雇用者の健康に対する企業努力は業績向上に帰結するという考えのもとに行われる企業経営の一環なのです。

 健康経営の目的

健康経営の目的は、日本再興戦略・未来投資戦略で目指している「国民の健康寿命の延伸」の実現であり、もともとは民間企業が発案したものでなく、政策として始められたものです。これらは新興国の経済的脅威や、高齢化による健康寿命と平均寿命の大きなギャップなど、日本が持つ課題を解決するために発案されました。

特に近年の健康経営においては、女性の健康にも関心が寄せられており、未来投資戦略を目指すには「女性のための健康経営」も取り組むべき課題の1つとして挙がっています。経済産業省※1によると、健康経営を積極的に推進する企業において最も関心が高かったのは、女性特有の健康問題対策についての取り組みだったほどです。

 健康経営が注目されている理由

健康経営が注目されるようになったのには、以下のような理由があります。

生産年齢人口が減少し人手不足が進んだ

高年齢者雇用安定法が改正された

時代に伴いワークライフバランスが重視されてきた

女性の社会進出により健康への取り組みが見直されるようになった

3-1. 生産年齢人口が減少し人手不足が進んだ

生産年齢人口とは、15~64歳の人口のことです。少子高齢化により生産活動の中心となる年齢層が減少しているため、これまで以上に従業員一人ひとりの生産性と希少価値が高まっています。

3-2. 高年齢者雇用安定法が改正された

高年齢者雇用安定法が改正され、2021年4月には70歳までの就業機会の確保が努力義務になったことも健康経営に関心が集まる理由です。今後従業員のなかでも割合が増えるシニア世代の従業員に配慮し、心身に不調を来すことなく長く働いてほしいと考える企業が増えています。

3-3. 時代に伴いワークライフバランスが重視されてきた

少子高齢化問題により、仕事に対する考え方が見直されるようになったのも理由の1つです。生活のほとんどを仕事に費やすと、自分の時間、あるいは家族との時間を確保できません。そうすると、さらなる日本の未婚率の高まりと、少子高齢化の進行が予想されるでしょう。加えて、企業の規定時間を超える残業や休日出勤などのオーバーワークが当たり前になってしまうと、従業員の健康が脅かされるほか、職場環境も悪化してしまう恐れがあります。

3-4. 女性の社会進出により健康への取り組みが見直されるようになった

これまでは食生活の変化による肥満者増加で生活習慣病が問題視され、特定健康診査(メタボ)の導入や義務化などの取り組みが行われていました。しかし、日本の全従業員数の約44.6%(2021年時点)※2を占める女性の健康に対する取り組みに注力することは、企業のさらなる活性化につながる可能性があると見直されるようになりました。

たとえば、経済産業省の調査では、女性特有の月経随伴症状による1年間の労働損失は4,911億円※1と推計されています。このような理由から、健康経営を通じて女性の健康課題に取り組み、女性が働きやすい社会環境の整備を進めることも、企業における生産性向上や業績向上に結びつくと考えられているのです。

 健康経営のメリット

健康経営は、企業に以下のような大きなメリットをもたらします。

企業の生産性向上

離職の抑制になる

企業の好感度が高まる

認定制度によってインセンティブを取得できる

4-1. 企業の生産性向上

健康経営の大きなメリットは、企業の生産性が向上することです。従業員が健康的な状態で仕事ができれば、プレゼンティーズムの減少につながります。プレゼンティーズムとは、心身に不調がある状態でパフォーマンス性が高まらないまま仕事をしていることです。たとえば、出勤時の喉の痛みや鼻詰まり、軽度な抑うつ気分などの症状があると集中力が低下し、ケアレスミスをしてしまうリスクが高まってしまいます。

プレゼンティーズムは企業の大きな課題であり、東京海上日動健康保険組合の資料※3からは、企業が健康にかけるコストのなかで最も大きい割合を占めているのは、労働生産性の喪失であることが分かります。

また、健康経営はアブセンティーズムの改善にも役立ちます。アブセンティーズムとは健康状態が悪く、従業員が遅刻や早退、欠勤などで稼働できない状態になることです。

4-2. 離職の抑制になる

従業員の離職を抑制できるのも、健康経営の大きなメリットでしょう。生産年齢人口の希少価値が高まっている現代の日本社会情勢では、従業員の離職は企業にとって大きな損失です。生産力の低下だけでなく、従業員にこれまでかけた人件費や新たにかかる採用費、新規採用が決まった際の教育費、リソースの確保など、多くのコストがかかるためです。

一方、従業員が健康的に長く働くことができれば離職率が下がり、従業員のスキルや知識、経験を資産化でき、労働生産力の向上につながります。

4-3. 企業の好感度が高まる

健康経営に注力している会社は支持を得やすく、ブランディングの効果も期待できます。雇用者側には従業員を大切にしていて働きやすい会社という印象を与え、採用活動では応募率の向上に寄与できる可能性があります。

また、健康経営は社会的に推進されているSDGsやサステナビリティ、CRSなどに通じた取り組みです。そのためBtoBのビジネスを対象としている企業は特に、クライアント先に先進的な取り組みをしている会社というイメージを与えられるでしょう。社会的意義を重視する外資系の企業や大手国内企業などに好印象を残すことができ、商談の際にはアピールできる要素が増えます。

4-4. 認定制度によってインセンティブを取得できる

健康経営に取り組み、基準値を満たして権威性の高い制度の認定を受けると、インセンティブを得ることができます。たとえば経済産業省や健康経営の公式サイトに掲載してもらえたり、一部の地域では自治体や金融機関から金利の優遇を受けられたりします。そのほかにもさまざまなインセンティブにより、企業のイメージアップを図ることができるでしょう。

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 健康経営の認定制度とは

企業による健康経営を促進するため、日本政府は下記のような制度を導入しています。

健康経営優良法人認定制度

健康経営銘柄

5-1. 健康経営優良法人認定制度

健康経営優良法人認定制度とは、健康経営に取り組むなかでも特に優良な企業を見える化し、正当な評価を受けられるようにする顕彰制度のことです。日本健康会議から認定を受けることで、健康経営優良法人のロゴマークの使用許可が下ります。求人活動や法人営業において有利に働くだけでなく、国や公共団体・公法人などから補助金の優遇措置が受けられたり、金融機関で優遇利率が適用されたりします。

5-2. 健康経営銘柄

健康経営銘柄とは、東京証券取引所へ上場する企業のなかで健康経営に取り組む優良な会社を選び、認定する制度のことです。投資家のようなステークホルダーからの信頼を得たり、社会的な評価向上がアピールポイントになったりするでしょう。健康経営銘柄の認定を受けた企業は、健康経営を浸透させるため「アンバサダー」のような役割を担います。健康経営が企業にとってどのようなメリットがあるのかを分析し、ステークホルダーにそれらを周知する取り組みを行います。

 健康経営優良法人認定までの流れ

健康経営優良法人に認定されるまでの流れは、下記の通りです。

[ 1 ]健康宣言事業への参加

[ 2 ]健康経営の実践

[ 3 ]申請

[ 4 ]認定

まず、 保険者もしくは自治体が運営する健康宣言事業へ参加します。このとき、自社が大規模法人部門と中小規模法人部門のどちらに該当するのか確認し、申請先を間違えないようにしましょう。申請後は、実際に健康経営に取り組みます。その際、申請書サンプルを使うと、健康経営の具体的なイメージが付きやすいためおすすめです。

次に、申請期間中に申請書を指定のページにアップロードします。健康経営優良法人認定に初めて取り組む企業の場合は、申請に必要なIDとパスワードの発行、申請後に届く請求書の支払いも忘れないように注意しましょう。認定要件が満たせていれば、無事認定となります。

 健康経営の具体策

健康経営の具体策の一例は、以下の通りです。

女性が働きやすい職場づくり

メンタルヘルスマネジメント

社内エンゲージメントを高める

喫煙についての取り組み

7-1. 女性が働きやすい職場づくり

女性が心身共に健康的に働くためには、先述した女性特有の月経随伴症状や妊娠・出産など、男性とは別に配慮すべきことがいくつかあります。総務省の労働力調査からここ数十年間、女性労働者が増加していることが分かることからも※4、企業において大きな影響を与える女性への健康サポート体制や長期勤続が可能な仕組みを作っていくことは、今後も必要不可欠であるといえるでしょう。

具体策としては、婦人科健診や生理休暇の付与、子どもがいる従業員の業務時間短縮、勤務形態変更といった支援制度などが挙げられます。

加えて、近年世界規模で重視されている課題にジェンダー平等があります。そのような社会のなかで企業を発展させていくためにも、女性が働きやすい職場づくりを目指さなくてはなりません。

7-2. メンタルヘルスマネジメント

メンタルヘルスマネジメントとは、従業員の精神状態が不調に陥らないようサポートし、管理することです。具体的には相談窓口の設置や、従業員が50人以上の企業で義務化されているストレスチェックなどが挙げられます。それに加えて、セミナーや個人説明会を通じて従業員自身でメンタルケアができるようになってもらうことも必要でしょう。

7-3. 社内エンゲージメントを高める

社内で関係構築ができていないと従業員同士で摩擦が生じ、場合によっては従業員が離職する恐れもあります。令和4年の労働安全衛生調査※5によると、職場や職業生活に関するストレスにおいて、対人関係が理由で不安やストレスを感じると回答した人は全体の30%弱を占めていました。

心理的安全性が確保できている職場は従業員同士の関係が構築しやすく、人間関係におけるストレスも抱えにくくなる傾向にあります。そうなると、コミュニケーションも取りやすく、作業効率も上がるメリットがあるでしょう。社内エンゲージメントを高める具体策として、交流会の開催や定期的なグループワークの実施などが挙げられます。

7-4. 喫煙についての取り組み

禁煙化は厚生労働省も取り組む大きな課題です。喫煙者は非喫煙者と比較すると、寿命が10年も短いことが判明しており、タバコの煙は喫煙者だけでなく、副流煙により周辺にいる非喫煙者にも悪影響を及ぼします。社内で禁煙治療のサポートをしたり、分煙化を徹底したりするのも、健康経営としての具体策でしょう。

 健康経営をしている企業の取り組み事例

健康経営の取り組み事例として、ANAグループをご紹介します。ANAグループは2024年に健康経営銘柄に選定されています。(2年連続の選定)

ANAグループは、「積極的な情報開示」という企業方針や「親しみやすさ・分かりやすさ」というカルチャーなど、情報発信を大切にしています。ステークホルダーへ健康経営を発信する媒体として発行された健康白書は、読み手がイメージしやすいように工夫されたイラストや画像、具体例を用いてANAグループの特色を体現した施策が施されています。そのほかにも社員食堂を活用した食事イベントや、セミナーなどの開催により、グループ全体が連携して健康経営に取り組んでいることが健康経営銘柄に選定された理由でしょう。

 女性の健康経営をしている企業の取り組み事例

女性のための健康経営の取り組みをしている企業として花王株式会社の実例をご紹介しましょう。花王では、女性の健康経営にあたり「アジアフェムテック・フェムケアプロジェクト」という社内活動を行いました。

具体的には、女性の健康リテラシーを向上させる研修や産後孤独を解消させるためのイベントの開催など、女性の健康にまつわる悩みを解消・共有するさまざまな取り組みを行いました。そのほか、職場のトイレに生理用品を常備する事業活動の「職場ロリエ」と連携し、社内や賛同企業、団体に対して啓発活動を実施しています。社内外にわたる健康経営を高く評価され、2023年の「女性の健康経営アワード」では推進賞を受賞しました。

 まとめ  

健康経営は近年の日本社会において、企業を長期的に成長させる戦略的な取り組みとして注目されています。企業と従業員どちらにもメリットがあり、健康経営優良法人に認定されれば大きなインセンティブも取得できるでしょう。健康経営を通じてよりよい未来を目指してみませんか?

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
 

※出典1:「健康経営における女性の健康の取り組みについて」、経済産業省ヘルスケア産業課
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdf
(最終確認:2024年5月27日)

※出典2:「令和3年版働く女性の実情」、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/21.html
(最終確認:2024年5月27日)

※出典3:「「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化」、東京海上日動健康保険組合
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/houkoku12.pdf
(最終確認:2024年5月27日)

※出典4:「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果」、総務省統計局
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/index.html
(最終確認:2024年5月27日)

※出典5:「個人調査」、労働安全衛生調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r04-46-50b.html
(最終確認:2024年5月27日)

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