リスキリングとは?
導入事例や支援制度、女性のリスキリングを解説


DX推進が加速する中で、企業にとって重要なのは新たなスキルを持つ人材の育成です。リスキリング自体は性別や年齢問わず広く対象となるものですが、特に女性従業員のキャリア形成を支援するリスキリングは、人材不足やダイバーシティ推進の鍵になることがあります。

本記事では、リスキリングの基本から導入メリット、制度活用、成功事例までわかりやすく解説します。


 リスキリングとは?

リスキリングとは、今の職務とは異なる分野や業種で必要とされるスキルを、新たに学び直すことを指します。
特に企業が主導して従業員に実施する教育形態で、業務変革やデジタル技術の進展に対応する手段として注目されています。
女性従業員にとっては、出産・育児などのライフイベント後にキャリアを再構築するための有効な選択肢にもなるでしょう。
また、企業が主体となることで、個々のキャリアアップだけでなく、組織全体の競争力強化にも直結します。


リカレント教育との違い

リスキリングと混同されやすい言葉に「リカレント教育」があります。
リカレント教育は、個人が自発的に学び直し、人生を通じて「働く、学ぶ、働く」を繰り返すことを意味します。
一方、リスキリングは企業側が主体となって業務変化に対応するために行う再教育です。企業の成長戦略や人材開発方針に直結するものであり、DX推進の一環として計画的に実施する点が特徴です。

参考:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流」


 なぜ今、リスキリングが注目されているのか?

社会や産業の変化が急速に進む中、従業員に求めるスキルも日々変化しています。
例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI技術の導入により、これまで人が行っていた作業の多くが自動化されています。その結果、単純作業のニーズは減少し、ITツールの活用やデータ分析など、より高度なスキルが必要とされる場面が増えています。
さらに、副業やリモートワークといった柔軟な働き方が広がったことで、「どこでも働ける力」「自ら学び続ける力」など、時代に合ったスキルも重要になっています。
こうした背景から、企業が主導して従業員のスキルアップを支援する「リスキリング」は、事業の成長や変化に強い組織づくりの鍵として注目を集めているのです。


女性のリスキリングが注目される理由

女性は出産や育児といったライフイベントにより、キャリアが中断、変化が発生しやすい傾向にあります。そのため、復職時にスキルのギャップが生まれるケースも見られます。
リスキリングによって新たなスキルを身に着けることで復職後の仕事の幅を広げることができれば、スムーズな職場復帰につながる可能性が高くなることもあるでしょう。
特にITやデジタル分野は女性の参入が少ない領域であり、企業がリスキリングを通じて支援することで、DX推進の人材不足解消にもつながります。


 企業が女性のリスキリングを導入するメリット

女性のキャリア支援は、企業の持続的成長や組織文化の刷新にもつながります。ここでは、女性のリスキリング導入が企業にもたらすメリットを紹介します。


労働人口の減少対策

日本では少子高齢化が進み、労働人口の減少が深刻な課題となっています。
こうした中で、企業が女性の社会進出を後押しし、スキルアップの機会を提供することは、人材不足の解消に向けた大きな一歩です。
離職の防止やスムーズな職場復帰にもつながり、企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。


多様な視点の取り込み

組織の中で女性の活躍が広がると、意思決定や商品・サービスの企画に、これまでになかった視点が加わります。
特に、リスキリングによって専門性を高めた女性人材が増えることで、新しいアイデアや独自の発想が生まれやすくなるでしょう。
こうした多様な視点は、イノベーションの促進や顧客ニーズへの対応力強化にもつながり、企業にとって大きな価値となります。


ダイバーシティ経営の推進

女性の活躍を支援し、多様な働き方に対応することは、企業のダイバーシティ経営を進める上で欠かせない要素です。
なかでもリスキリングは、スキルの底上げと機会の平等を実現する手段として有効です。
この取り組みは、SDGsの「ジェンダー平等を実現しよう」や「働きがいも経済成長も」といった目標にも貢献します。結果として、企業の社会的な評価やブランド価値の向上にもつながります。


働きやすい企業としてのブランディング強化

リスキリングをはじめとする人材育成や柔軟な働き方への対応は、従業員にとって魅力的な職場環境を形成します。
その結果、社内外に対する「働きやすい企業」というブランドイメージが強化され、採用活動でも優位に立ちやすくなるでしょう。


即戦力となる人材の増加

企業によっては、これまでの採用方針により、女性が一部の職種に偏っているケースもあるでしょう。例えば、事務職やバックオフィスの人材が女性メインで構成されており、一方でその他の職種では人材不足が起きているといったケースが考えられます。
採用方針の偏りによる人材不足解消に向けて、すでに一定の事務スキルや社会経験がある人が、それを一層生かせるようなIT技術を習得することによって、短期間で営業事務として活躍できる人材になり得ます。
企業にとっては、採用やゼロから育成するという手間を抑えつつ、必要な業務に即応できる人材を確保できるメリットがあります。


 【政府による】女性のリスキリングの補助金・支援制度

リスキリングの実施にはコストがかかりますが、国の支援制度を活用すれば負担を軽減できます。
ここでは、女性のリスキリングに活用できる政府の助成制度を紹介します。


人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、企業が従業員に対して職業訓練を実施した際に、その訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される制度です。6つのコースが設けられており、さまざまなニーズに応じた活用が可能です。
例えば、デジタル人材や高度人材の育成を目的とした「人への投資促進コース」では、サブスクリプション型の訓練や自己啓発を支援する研修が対象となります。
また、新規事業の立ち上げや事業転換などで新たな知識・技能が必要になる場合には、「事業展開等リスキリング支援コース」を活用することで、実践的な支援が可能です。

参考:人材開発支援助成金|厚生労働省


教育訓練給付制度

教育訓練給付制度は、厚生労働大臣が指定する講座を受講・修了した場合に、教育訓練経費の一部が支給される制度です。給付金の対象となる講座は、目的やレベルに応じて3種類に分類されます。
なかでも「専門実践教育訓練」は、労働者の中長期的なキャリア形成を支援する制度で、より専門性の高い訓練が対象です。このコースでは、訓練経費の50%(年間上限40万円まで)が、6カ月ごとに支給されます。条件により、最大で訓練経費の80%の給付を受けることも可能です。
女性のキャリア再構築や新たな分野への挑戦を後押しする制度として、多くの企業や個人が活用しています。

参考:教育訓練給付制度|厚生労働省


両立支援等助成金

育児や介護といった家庭の事情と仕事を両立しやすい職場環境を整えるために、中小企業を対象に支援する制度です。
育児休業や介護休業の取得促進、短時間勤務制度の導入など、6つのコースが設けられています。
復職支援の一環として研修を実施する場合に、その費用が助成対象となる可能性があります。

参考:両立支援等助成金|厚生労働省


 【自治体による】リスキリングの補助金・支援制度

リスキリングを支援する補助金や助成制度を設けている自治体もあります。


東京都:令和7年度 育業中スキルアップ助成金

育業中の従業員が復職後にスムーズに業務に戻れるよう、スキルアップを支援することで、企業の人材育成と定着を促進するための助成制度です。
東京都内に本社または主たる事業所がある、など対象となる企業には制限があり、4週間以上の育業を取得し、その期間中に研修を受講する人が主な対象者です。

参考:令和7年度 育業中スキルアップ助成金:東京しごと財団


大阪府:大阪府中小企業従業員人材育成支援補助金

物価高騰や人手不足といった課題に直面する中小企業を対象に、従業員のスキルアップを支援する補助金制度です。
企業が従業員に業務上必要な知識や技能を習得させるための研修を受講させた場合、その費用の2分の1が補助されます。
さらに、人手不足が特に深刻な運輸・建設業や、企業からのニーズが高いデジタル分野に関する研修については、補助率が4分の3に引き上げられるなど、重点的な支援が行われています。
申請は大阪府のサイトからオンラインで行います。

参考:大阪府中小企業従業員人材育成支援補助金について


広島県:令和7年度広島県人材開発支援助成金活用支援補助金

本制度は、県内企業が人材開発支援助成金を活用して従業員のスキルアップに取り組む際、その申請事務を社会保険労務士などに委託する費用の一部を補助するものです。
対象となるのは、広島県内で事業を営み、人材開発支援助成金(人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース)を活用している企業などです。
自社内での申請準備や手続きに不安を感じる企業にとって、専門家のサポートを受けながら制度を円滑に活用できる有益な支援策といえます。

参考:令和7年度広島県人材開発支援助成金活用支援補助金について - 人的資本経営ひろしま。リスキリング


 リスキリングの導入事例

ここでは、リスキリングを実際に導入している企業の事例を紹介します。


ENEOSホールディングス株式会社

脱炭素社会や循環型社会への移行が求められる中、ENEOSホールディングス株式会社では、新規事業を担う人材の育成を急務と位置づけ、その一環として2023年に「レンタル移籍制度」を導入しました。
これは、社員がENEOSに在籍したまま1年間ベンチャー企業で勤務し、新たな知識や経験を得る制度です。
あわせて、事業ポートフォリオの転換に対応した研修やリスキリング施策、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進にも力を入れています。
施策の効果は、オンライン学習プラットフォームの利用状況や、女性・中途採用者の管理職登用数といった具体的な数値で把握しています。

参考:人的資本経営コンソーシアム


株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループ

株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループでは、人材戦略の一環として「キャリアオーナーシップの浸透」を掲げ、社員自らが新たな業務に挑戦できる環境づくりを進めています。
その代表的な取り組みが「リスキリングチャレンジ」制度です。行内公募で選ばれた130名の社員は、6カ月間の育成期間中に集合研修や希望部署でのトレーニーを経験し、最終的なスキル評価を経て新しい部署に正式配属されます。
また、営業力強化に向けて、3段階のスキルレベルに応じた研修体系を構築。スキル習熟度、教養、実践の3要素で半期ごとに社員を評価し、高いレベルに達した社員には、戦略的な配置転換や昇進などさらなる成長機会を提供しています。

参考:人的資本経営コンソーシアム


株式会社山陰合同銀行

株式会社山陰合同銀行では、急速な環境変化に対応しながら事業成長を実現するため、コンサルティング・デジタル・本部業務の各専門領域における人材の専門性強化に取り組んでいます。
各分野において必要なスキルレベルを3段階に分けて管理し、例えばデジタル分野では「プロ」レベルの人材を26名育成することを目標に、1年間の外部研修などを通じて人材育成を強化しています。
また、法人営業力の強化を目的に、大胆な組織改革と人材再配置を実施。他部門から法人営業部門への異動を支援し、合計154名の行員を対象に、eラーニングやOJT(現場指導)を活用した1年間の集中的な育成プログラムを展開しています。

参考:人的資本経営コンソーシアム


 リスキリングを定着させるためのポイント

リスキリング施策を一時的な研修に終わらせず、組織に根付かせるには、制度設計や運用の工夫が欠かせません。
ここでは、社内でリスキリングを定着させるための4つのポイントを紹介します。


KPIの設計と可視化

リスキリング施策には、明確なKPI(重要業績評価指標)を設定することが重要です。
研修の参加率、修了率、習得スキルの業務活用度などを数値で可視化し、定期的に経営層へレポートする体制を整えることで、組織全体の巻き込みが図れます。


評価制度との連動

リスキリングによるスキルアップは、人事評価と連動させることでモチベーション向上につながります。仕事やプライベートの時間を調整して新たなスキルや知識を習得するためには、本人が意欲的に取り組めるということが重要になります。
そのためには、例えば研修の修了を昇進や異動の条件とするなど、インセンティブ設計が効果的です。キャリア中断から復職した女性のみならず、公正な評価制度の整備は多くの従業員がリスキリングに前向きになるために、不可欠な環境条件です。


現場との連携・巻き込み

リスキリングは、人事部門だけでなく現場の協力が不可欠です。
例えば、育児や介護と両立する従業員や時短勤務者など、多様な働き方に配慮した研修設計を行うには、現場の声を丁寧に反映させる仕組みが必要です。
上司との日常的なコミュニケーションも、学習意欲を支える鍵となります。


継続学習の仕組み化

スキルは一度の研修で定着するものではありません。段階的に成長できるカリキュラムや、eラーニング・オンデマンド型講座など柔軟な学習機会を用意することが大切です。
特に、育児や介護と両立する従業員にとっては、自分のペースで学べる環境を整えるのが効果的でしょう。


 リスキリングで新たな可能性を

リスキリングは、企業の競争力強化と従業員のキャリア形成の両方に資する重要な取り組みです。特に女性従業員の活躍推進という観点でも大きな可能性を秘めています。
制度の活用や事例を参考に、効果的なリスキリング施策を検討・実施していくことが求められます。

【監修】

佐野 真子

キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント

企業のセルフキャリアドック導入及び3000名以上の従業員面談、両立支援に携わる。厚生労働省が進めるキャリア形成・リスキリング事業や就職ガイダンス事業に携わり、キャリアデザインセミナーや面談を実施。キャリコンバンク®事業では、企業顧問及び社外相談窓口を通じて、AI時代の働き方についても企業の事業創造とキャリア形成を支援している。

著書
「現代版キャリア革命:昭和世代のための頑張りすぎない生き方を手に入れる方法」
「ビジネスパーソンのための色彩心理活用術 キャリアカラーセラピー®」