女性活躍推進企業認定「えるぼし認定」とは?
取得のメリットや基準を解説
現在の日本では、そもそもの労働人口減少や企業の採用意欲の高まりによって、求職者に有利な売り手市場が続いています。どの企業にとっても、優秀な人材を確保することは重要な課題です。その中で、女性の社会進出や人々の価値観・ライフスタイルの多様化が進み、優秀な女性社員の採用と定着化への取り組みは欠かすことができません。
女性活躍推進施策には、国や自治体からの助成金や補助金の対象になるものもあります。女性活躍認定制度のことを理解し、どのような制度を活用すべきか検討しましょう。
女性活躍推進企業認定「えるぼし認定」とは?
画像引用:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000594317.pdf
えるぼし認定・プラチナえるぼし認定とは、「女性活躍推進法」に基づき、女性の活躍に関する状況が優良な企業が、厚生労働大臣の認定を受けた証です。
認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マーク(「えるぼし」または「プラチナえるぼし」)を商品や広告などに付することができます。企業の女性活躍推進状況を5つの評価基準で審査し、基準を満たした企業が取得できます。認定は3段階(1~3段階)に分かれており、より多くの基準を満たすほど高い等級が与えられます。
くるみん認定との違い
「くるみん認定」は、「次世代育成支援対策推進法」に基づき、子育て支援に積極的に取り組む企業を対象とした認定制度です。一方、えるぼし認定は女性の活躍推進に焦点を当てており、より包括的に女性のキャリア形成を支援する企業が対象となります。
えるぼし認定の等級と5つの評価基準
画像引用:https://shokuba.mhlw.go.jp/published/special_02.htm
えるぼし認定は、5つの評価基準に基づいて3段階のえるぼし等級で認定されます。えるぼし等級の認定基準は次の通りです。
等級 |
認定基準 |
★(1つ星) |
5つの基準のうち1つ又は2つの基準を満たし、その実績を「女性の活躍 推進企業データベース」に毎年公表していること |
★★(2つ星) |
5つの基準のうち3つ又は4つの基準を満たし、その実績を「女性の活躍 推進企業データベース」に毎年公表していること。 |
★★★(3つ星) |
5つの評価項目の全てを満たす |
さらに、えるぼし3つ星を取得した企業の中でも、特に優れた取り組みをしている企業に与えられる最上位認定として、プラチナえるぼし認定があります。プラチナえるぼし認定では、基準達成だけでなく、実質的な女性活躍の成果や、さらに高度な取り組みも求められます。
プラチナえるぼしの基準は次の通りです。
- えるぼし3つ又は4つ星を取得済
- 策定した一般事業主行動計画に基づく取組を実施し、当該行動計画に定めた目標を達成したこと
- 男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任していること
- 女性活躍推進法に基づく情報公表項目(社内制度の概要を除く。)のうち、8項目以上を「女性の活躍推進企 業データベース」で公表していること
企業は、まずえるぼし認定を目指し、その後プラチナえるぼし認定を目指す流れが理想的です。
採用
女性の採用比率が一定の水準を超えているかが評価されます。ここでは、採用における男女格差がないか、女性の採用比率が一定以上であるか、が求められます。一般的に、応募者の男女比と採用者の男女比が極端に異なる状況ではなく、特定の職種での女性採用が著しく少ない場合などに是正のための施策を講じていることが基準となります。
評価基準の詳細は下記の通りです。
次の(ⅰ)と(ⅱ)のいずれかに該当すること。 (※直近3事業年度の平均した「採用における女性の競争倍率」×0.8が、直近3事業年度の平均した「採用における男性の競争倍率」よりも雇用管理区分ごとにそれぞれ低いこと(期間の定めのない労働契約を締結する労働者として雇い入れることを目的とするものに限る)。) ① 正社員に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値(平均値が4割を超える合は4割)以上であること。 ② 正社員の基幹的な雇用管理区分における女性労働者の割合が産業ごとの平均値(平均値が4割を超える場合は4割)以上であること |
継続就業
女性が長く働き続けられる環境が整っているかを確認します。結婚や出産、育児といったライフステージを背景とした離職率が高くないことが基準となります。そのため、一定年数での女性定着率、育児休業や介護休業からの復帰率、仕事と家庭を両立するための社内制度などが問われます。
評価基準の詳細は下記の通りです。
(ⅰ)直近の事業年度において、次の①と②のいずれかに該当すること。 ① 「女性労働者の平均継続勤務年数÷男性労働者の平均継続勤務年数」が雇用管理区分ごとにそれぞれ70%以上であること(期間の定めのない労働契約を締結している労働者に限る) ② 「10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された女性労働者の継続雇用割合」÷「10事業年度前及びその前後に採用された男性労働者の継続雇用割合」が雇用管理区分ごとにそれぞれ0.8以上であること
・直近の事業年度において、正社員の女性労働者の平均継続勤務年数が産業ごとの平均値以上であること。 |
引用:厚生労働省 女性活躍推進法に基づくえるぼし認定の概要について
さらに、プラチナえるぼし認定の基準は、上記の基準のうち、(i)について8割以上、(ii)について9割以上です。
労働時間等の働き方
女性が無理なく働き続けられる労働環境が整っているか、というのもひとつの基準です。ただし、労働時間に関しては労働基準法に即したものであり、男女関わらず同一の下記の条件が適用されます。
雇用管理区分ごとの労働者の法定時間外労働及び法定休日労働時間の合計時間数の平均が、直近の事業年度の各月ごとに全て45時間未満であること。 |
管理職比率
女性が活躍できる職場環境には、性差なく評価を受けられるということも重要です。そのため、昇進や昇格において男女格差がないことや、女性管理職の割合が一定水準以上であることも評価基準のひとつです。女性管理職比率に関する評価基準の詳細は次の通りです。
次の(ⅰ)と(ⅱ)のいずれかに該当すること。 (ⅰ)管理職に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値以上であること (ⅱ)直近3事業年度の平均した「課長級より1つ下位の職階にある女性労働者のうち課長級に昇進した女性労働者の割合」÷直近3事業年度の平均した「課長級より1つ下位の職階にある男性労働者のうち課長級に昇進した男性労働者の割合」が0.8以上であること |
引用:厚生労働省 女性活躍推進法に基づくえるぼし認定の概要について
プラチナえるぼしでは、さらに厳しい下記の数値基準が設けられています。
直近の事業年度において、管理職に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値の1.5倍以上であること。 ただし、1.5倍後の数字が、 ①15%以下の場合は、管理職に占める女性労働者の割合が15%以上であること。 (※)「直近3事業年度の平均した1つ下位の職階から課長級に昇進した女性労働者の割合」が「直近3事業年度の平均した1つ下位の職階から課長級に昇進した男性労働者の割合」以上である場合は、産業計の平均値以上で可。 ②40%以上の場合は、管理職に占める女性労働者の割合が正社員に占める女性比率の8割以上であること。 (※)正社員に占める女性比率の8割が40%以下の場合は、40%以上 |
引用:プラチナえるぼし認定
多様なキャリアコース
昇進や昇格の機会だけでなく、職務変更やスキルアップなど、女性が多彩なキャリアパスを選択できる環境が整っているかを評価します。また、女性従業員の再雇用なども評価指標のひとつとなり得ます。詳細は次の通りです。
直近の3事業年度に、以下について大企業(301人以上規模)については2項目以上(非正社員がいる場合は必ずAを含むこと)、中小企業(300人以下規模)については1項目以上の実績を有すること A 女性の非正社員から正社員への転換(派遣労働者の雇入れ含む) B 女性労働者のキャリアアップに資する雇用管理区分間の転換 C 過去に在籍した女性の正社員としての再雇用 D おおむね30歳以上の女性の正社員としての採用 |
企業がえるぼし認定を取得するメリット
イメージアップにつながる
えるぼし認定を取得することで、女性活躍推進に取り組む企業としての社会的評価が高まります。特に、企業のブランディングや採用活動においてプラスの影響を与えます。女性求職者にとって魅力的な企業と認識されるだけでなく、積極的にダイバーシティ推進を進めている企業として、優秀な人材の確保にもつながります。また、株主や取引先からの信頼度が向上し、企業価値の向上にも貢献します。
社員満足度の向上につながる
えるぼし認定取得のためには、女性が働きやすい職場への制度整備を行う必要が出てくるケースもあるでしょう。女性が働きやすい環境が整うことで、企業全体の労働環境が改善され、社員の満足度が向上します。ワークライフバランスの向上や多様なキャリアパスの提供が可能になり、社員のモチベーションアップやエンゲージメント向上につながります。結果として、離職率の低下や生産性の向上を期待でき、企業にとってのメリットが大きくなります。
有利な条件で公共調達を進められる
えるぼし認定を取得すると、国や自治体が発注する公共調達の際に加点対象となる場合があります。これは、企業が公共事業への参入を有利に進める要素となり、ビジネスチャンスの拡大につながります。特に、女性活躍推進を重視する自治体や官公庁との取引において、他社との差別化を図ることが可能です。
補助金や助成金の優位性
えるぼし認定企業は、国や自治体が提供する各種補助金や助成金の申請において優遇される場合があります。具体的には、「両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)」や「働き方改革推進支援助成金」などの申請時に加点が適用されることがあります。これにより、企業は資金面での支援を受けながら、さらなる女性活躍推進施策を展開することができます。特に、中小企業にとっては、経済的な負担を軽減しながら制度改革を進めるための大きな助けとなるでしょう。
えるぼし認定の取得方法と申請の流れ
ここからは、えるぼし認定の取得方法と申請の流れを解説します。
1.一般事業主行動計画の策定・届出
えるぼし認定を取得するためには、まず「一般事業主行動計画」を策定し、労働局へ届出を行う必要があります。ここでは、次のステップで進めていきましょう。
1-1. 自社の女性活躍に関する現状・課題の把握:
女性の採用率、管理職比率、労働環境などを分析し、課題を明確にする
1-2. 一般事業主行動計画の策定、社内周知、外部公表:
女性の活躍推進に向けた具体的な目標や取り組みを計画し、従業員や社会へ公表する
1-3. 一般事業主行動計画を策定した旨の届出:
策定後、所管の労働局へ届け出る
2.女性の活躍に関する情報公表
えるぼし認定を受けるためには、女性の活躍状況に関する情報を社外へ公表することが義務付けられています(常時雇用する労働者数が101人以上の事業主は義務、100人以下の事業主は努力義務)。具体的には、職業生活に関する機会の提供に関する実績と、職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績の各区分から1項目以上(合計2項目以上)を企業のウェブサイトや厚生労働省のデータベースに掲載する必要があります。また、常時雇用する労働者が101人以上の事業主は、全ての項目から1項目以上を公表する必要があります。この公表は、透明性を確保するとともに、企業の取り組みを広く社会に示す重要なステップとなります。
3.えるぼし認定申請
すべての準備が整ったら、管轄の労働局へ「えるぼし認定」の申請を行います。申請時には、一般事業主行動計画の実施状況や女性の活躍に関するデータを提出し、審査を受けます。審査の結果、基準を満たしていると判断されれば、えるぼし認定が付与され、企業は認定マークを活用して広報活動を行うことができます。
えるぼし認定を取得している企業の例
えるぼし認定取得を目指すことで、社内環境や制度がどのように変化したのか、実際にえるぼし認定を取得した企業の具体例から見てみましょう。
狭山ケーブルテレビ株式会社
狭山ケーブルテレビ株式会社は、地域密着型のケーブルテレビ事業を展開しており、女性の活躍推進に積極的に取り組んでいます。以前は忙しさに追われ、働き方改革や女性活躍に関する議論を進めることもなかったものの、課題ととらえていたことから、えるぼし認定取得を目指すことに。アドバイザーからの助言などを踏まえ、人事評価制度の見直しや、女性社員を管理職に登用するためのサポート体制の見直しなどを実施。
外部のキャリア研修に出席した女性社員が刺激を受けて管理職を目指すようになったり、えるぼし認定取得によって、今まで自分には関係ないと思っていた社員の関心も高まり、育休復帰後の女性社員のスムーズな職場復帰につながるなど、企業全体への意識改革にもつながったといいます。
総合埠頭株式会社
総合埠頭株式会社は、港湾物流業界において女性の活躍を促進する取り組みを推進しています。課題の分析過程では、従業員比率や待遇面などにおいては、管理職比率以外はさほど男女差がないことがわかったそう。一方で、昇進や昇給といった人事評価・基準が明確ではないことや、女性の管理職比率向上のためにはロールモデルの育成から行うべきだという課題がクリアになりました。
えるぼし認定取得自体は、採用や会社のイメージアップなども考慮して認定取得を目指していたということですが、社外セミナーのへの参加によって異業種で管理職を目指す女性との交流が増えて従業員の刺激につながったり、実際に管理職を目指す女性が増えたりと、女性社員自身の意欲向上につながったことがわかります。
参考:総合埠頭株式会社
イー・バレイ株式会社
イー・バレイ株式会社は、IT業界において女性の採用比率向上や継続就業の促進に力を入れています。えるぼし認定取得を目指す以前は、女性社員が約2割程度しかいないだけでなく、女性管理職も不在、男性に比べて女性の離職率が約3倍も高かったという同社。えるぼし認定取得を目指す過程では、女性社員のキャリア支援として、メンター制度やスキルアップ研修を導入し、管理職への登用を積極的に行うようにと変わっていきました。
また、リモートワークや時短勤務など柔軟な働き方を推進し、育児や家庭との両立をサポートする環境を整えています。これにより、女性社員の定着率向上や働きやすさの向上を実現し、女性社員がこの2年間で3名増え、管理職にも女性を登用しました。
参考:イー・バレイ株式会社
女性活躍認定制度「えるぼし認定」取得は企業成長にもつながる
えるぼし認定は、女性活躍推進に取り組む企業を評価し、社会的信用を高める制度です。取得により企業のイメージアップ、社員満足度向上、公共調達や助成金の優遇措置など多くのメリットがあります。また、実際にえるぼし認定取得のために職場環境や制度を改善した企業の事例からは、女性の働きやすさを追求する過程では、性別問わず多くの人の意識変容や、働きやすさ向上につながったこともわかります。企業の競争力向上のためには、優秀な人材の流出を抑え、新たに獲得していくという双方向の要素が欠かせません。そのためにも、えるぼし認定の取得を検討してみてはいかがでしょうか。
【監修】
佐野 真子
キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
企業のセルフキャリアドック導入及び3000名以上の従業員面談、両立支援に携わる。厚生労働省が進めるキャリア形成・リスキリング事業や就職ガイダンス事業に携わり、キャリアデザインセミナーや面談を実施。キャリコンバンク®事業では、企業顧問及び社外相談窓口を通じて、AI時代の働き方についても企業の事業創造とキャリア形成を支援している。
著書
「現代版キャリア革命:昭和世代のための頑張りすぎない生き方を手に入れる方法」
「ビジネスパーソンのための色彩心理活用術 キャリアカラーセラピー®」