女性のキャリア形成は難しい?
取り組み方を4ステップで徹底解説
「女性がキャリアを形成できるような施策に取り組みたい」
「女性の管理職を増やして人材不足を解消していきたい」
女性がキャリアを形成できるような取り組みに悩む人事担当の方も多いのではないでしょうか。企業には従業員がライフイベントの変化に対応できるように、働きやすい環境を整えることが求められます。
当記事では、女性がキャリアを形成できるように、企業が取り組むべき施策を紹介します。
記事を読むことで、成功事例を通して具体的な施策案が見つかり、女性のキャリアが形成しやすい環境づくりに取り組めるでしょう。
女性のキャリア形成の現状
まずは、女性のキャリア形成の現状を把握しましょう。
女性の就業率の上昇
画像引用:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和6年版」
内閣府男女共同参画局の調査によると、女性(15〜64歳)の就業率は、2005年の58.1%から、2023年には73.3%へと上昇し、過去最高記録を更新しています。
このデータは、女性の社会進出が着実に進んでいることを示しています。
女性のキャリアに対する価値観の変化
画像引用:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和6年版」
内閣府男女共同参画局の調査によると、キャリアに対する価値観も数十年で変化しました。
第1子出産前に就業していた女性の就業継続率(第1子出産後)は上昇傾向にあり、2015年から2019年に第1子を出産した女性の約69.5%が出産後も仕事を続けていることがわかります。
これは、1995年から1999年の38.1%と比べて大きく増加しており、子供を産んでも仕事を続ける女性が増えていることがわかります。
女性のキャリア形成が重要な理由
画像引用:内閣府男女共同参画局「共同参画」
女性のキャリア形成が注目され、重要視されつつある理由として、世界的にみて日本の女性の活躍が遅れていることが背景にあります。
内閣府男女共同参画局の調査によると、日本企業の役員に占める女性の割合は約10%です。一方、フランスやノルウェー、イギリスなどは2021年の時点で30%後半から40%台半ばに達しており、日本はこれらの国と比べて約3倍の格差があります。
これらの国々では、男女間の格差を解消するために、企業に女性役員の割合を一定以上にするクオーター制度を導入していますが、日本では導入が進んでいないのが現状です。
しかし、女性の活躍の場所を増やすことで、企業は多様な視点や新たな価値観を獲得でき、さらなる成長につながると期待されています。
女性のキャリア形成における3つの課題
女性のキャリア形成では3つの課題があります。
女性が長く働ける環境不足
画像引用:男女共同参画局「特-2図 就業状況別人口割合(男女、年齢階級別・令和5(2023)年)」
女性のキャリア形成における課題の一つとして、企業によってはライフイベントに起因して長く働ける環境が整っていないことが挙げられます。男女共同参画局のデータによると、女性は男性と比べて正規雇用比率が低く、男性は20代後半から50代まで7~8割で台形を描いている一方で、女性は25~29歳の59.4%をピークとし、年代が上がるとともに低下するL字カーブを描いています。
産前産後の休業はもちろんのこと、復帰後も育児や介護と仕事の両立が求められるため、子育てしながら働く環境が整えられていなければ、離職をしてパートタイム等で働く選択をせざるを得ない人が多くなるでしょう。
企業は、働く環境を整えるために、育児や介護と両立するためのテレワークや時差出勤などの制度を導入する必要があります。
参考:厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会(報告書(案)関係資料)」
育児や介護とキャリアアップの両立への不安
女性が育児をしながらキャリアアップを目指す際、両立の難しさや職場での理解不足に対する不安が大きな課題になることがあります。
特に、仕事と家庭のバランスを取るための柔軟な働き方やサポート体制が不足している場合、キャリアを積みながら育児を続けることが困難になりやすいでしょう。
そのため、「妊娠や出産をしたり介護をする必要が生じたりしても働き続けられるだろうか」という不安を抱えて、昇進へのチャレンジに足踏みしている方も多くいます。
男女間の給与の格差
女性のキャリア形成における3つ目の課題は、企業内での男女間の給与格差です。2023年の賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の平均賃金は男性が350.9千円、女性 262.6千円となっており、男女間で差があることがわかっています。
これらの男女間の給与の格差問題を解決するために、2022年7月に厚生労働省の女性活躍推進法の改正が発表されました。この改正により、常時雇用労働者301人以上の事業主を対象に、男女間賃金格差の開示が義務付けられています。
さらに2021年には、同一労働同一賃金ガイドライン案が発表されました。このガイドラインは、雇用形態にかかわらず、均等でバランスの取れた待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現を目指す内容となっています。
参考:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」
女性のキャリア形成を支援する企業側の3つのメリット
女性のキャリア形成を支援するにあたって、企業側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここからは、キャリア形成を支援する企業側のメリットを解説していきます。
優秀な人材の確保・定着
女性のキャリア形成の支援により、育児や介護などでキャリアを築けなかった女性が継続的に働けるようになります。キャリア支援を充実させることにより、女性のライフステージの変化に対応できる環境が整うため、離職率の低下にも繋がるでしょう。
また、キャリア形成の支援でさまざまな女性が集まりやすくなり、キャリアアップを目指す優秀な人材が集まりやすくなり、人材の採用率が高まることも期待できます。
社員のモチベーション向上
社員が育児や介護しながら働ける環境が整っていると、「自分たちを大切にしてくれている」と実感でき、モチベーションアップにも繋がりやすいでしょう。
さらに、在宅ワークやフレックス制度などの多様な働き方ができるようになると、社員にとって働きやすい環境が構築されます。
このようにモチベーションアップに繋がる環境が整っていると、企業に対する帰属意識が高まり、主体性が生まれます。
結果、組織全体にチームワークが生まれて、「この企業で働き続けたい」という社員が増えていくでしょう。
企業ブランドの向上
女性のキャリア形成を積極的に支援する企業は、女性の活躍推進に力を入れているとみなされ、社会的に信用が高まります。
具体的には、ある一定の基準を満たすことで厚生労働省により「えるぼし認定」を獲得できます。えるぼし認定を受けることで、求人採用の際などに公式認定マークがつくため、外部からの信頼もより高まるでしょう。
さらに認定マークがあることで、優秀な人材が集まりやすくなり、人材の採用率アップも期待できます。
企業が取り組む女性のキャリア支援策
- 評価制度の見直し
- 定期的な個別面談の実施
- 育児や介護を支援する制度の導入
- ロールモデルの育成
- 管理職の積極的な関与
評価制度の見直し
企業は、女性に対する仕事の割り振りや期待値を性別に基づくものではなく、個々の能力や意欲に基づいて決定する必要があります。これにより、全社員が性別に関係なく公平に評価される環境が整います。
評価制度を改善する際は、成果や貢献度を数値化して、客観的に測定できる基準を設けることが大切です。例えば、売上やプロジェクトの達成度、チームへの貢献度などを基に正当に評価することができます。
定期的な個別面談の実施
上司に相談しやすい環境を整えることで、将来のキャリアに対する不安や人間関係からくるストレスを軽減することができます。
企業としては、社員がライフプランの変化に伴って抱えやすい仕事と家庭の両立や人間関係、体調面の悩みを一人で抱え込まないよう、定期的な上司との面談機会を設けることが重要です。
このような相談の場を定期的に設けることで、社員は悩みを解消しやすくなり、キャリア形成に前向きに取り組めるようになります。
また、産業医や臨床心理士、キャリアコンサルタントとのキャリア面談などの機会を提供することも、社員のサポート体制を充実させるうえで効果的です。
育児や介護を支援する制度の導入
出産や育児、介護といったライフイベントがあっても、女性がキャリア形成を諦めずに取り組めるよう、働きやすい環境づくりが欠かせません。
具体的には、長時間労働の削減や短時間勤務、テレワークの導入など、社員が多様な働き方を選べる環境を整えることが重要です。
さらに、介護支援に特化した福利厚生制度や育児休業からのスムーズな復職支援を強化することで、キャリアが途切れない仕組みをつくることが効果的です。
また、実際のニーズを把握するために、育児や介護をしている社員の生の声を直接聞く場を設け、自社に合った課題解決型の制度を導入していくのがよいでしょう。
ロールモデルの育成
企業は、社員の行動や考え方の模範となるロールモデルを育成することが重要です。働く女性にとって、「こんな女性になりたい」と思える憧れの存在がいることで、将来の目標が具体化し、キャリア形成の道筋が描きやすくなります。
ロールモデルの存在は、憧れの人物に少しでも近づこうとする成長意欲を引き出し、結果として組織全体の活性化にもつながります。
ロールモデルを育成するには、キャリアアップに必要なスキルを学べるセミナーや外部講習などの教育プログラムを提供することが効果的です。また、eラーニングや通信講座を活用した個別研修の場を設けるのもよいでしょう。
管理職の積極的な関与
女性のキャリア形成を支援するためには、管理職の理解と積極的な関わりが重要です。具体的には、社員の育児や介護などライフイベントをの際に相談に乗り把握し、社員の状況に応じて柔軟な働き方の提案や、管理職への登用基準の見直しなど実情に即した環境介入を行うことが求められます。
また、キャリア面談の定期実施、復職時のケア・サポート、短時間正社員やエリア限定社員制度導入等、必要に応じて、仕組み作りに向けた提言も期待されています。
管理職として、部下の成長や悩みを支援する役割が求められているため、積極的に関与しながら女性の活躍を後押ししていきましょう。
女性のキャリア形成を推進するために社内で分析するポイント
女性のキャリア形成を促進するためには、社内での問題や課題を分析した上で、改善に取り組む必要があります。ここからは、社内で分析するポイントを解説していきます。
職場環境の分析
キャリア支援を効果的に実施するために、社員の声を定期的に収集・分析していくことが重要です。例えば、定期的な社員アンケートや面談を実施し、職場環境への要望や不満な点などを把握することで、早期に具体的な課題を特定し、改善に取り組むことができます。
社内での分析においては、年齢層や所属部署などの属性ごとの傾向を調べることで、より詳細な課題の把握が可能です。これらの分析結果に基づき、業務改善や会社の方針の見直しなど、長期的にキャリアを形成できる環境づくりにつながる対策を講じることができます。
業務実態や残業時間の分析
女性のキャリア形成を促進するには、女性が働きやすい労働環境であることも重要です。社内の有給休暇消化率や残業時間などを詳細に分析し、労働環境の実態を把握するとともに、課題が見つかればその解決を図りましょう。
例えば、女性がキャリア形成を断念する大きな要因の一つに、育児や介護との両立が難しい状況が挙げられます。こうした問題を解決するために、まずは、実態に即した業務連携ができているか、チームでのフォロー体制があるかなど、組織の現状について見直すことが大切です。
さらに、柔軟な勤務体系や育児支援の強化を検討することで、女性社員が仕事と家庭を両立しやすい環境を整えられます。
昇進・昇格状況の分析
男女間のキャリアアップの状況を分析し、男女間に格差がないか傾向を把握するのも一つの方法です。たとえば以下のような項目があげられます。
- 女性社員の昇進や昇格の現状
- 職位・職階ごとの女性比率
- 入社年度別の昇進状況
- 昇進の際の障壁
これらを数値化して細かく分析した結果をもとに、昇進、昇格するために必要な支援制度の見直しや公平な評価制度の整備、キャリア形成支援プログラムの整備などを行えます。
また、女性活躍推進法に基づく公表義務のない数値や定性面に関しては、実態に合わせた対応が求められます。
会社の昇進・昇格基準を満たしているにも関わらず、状況が改善していない場合はアンコンシャスバイアスがないかどうか、社内風土づくりや評価者への研修の実施等が考えられます。また、必要なスキルが不足していると想定される場合には、求められるスキルの可視化とスキルギャップ解消に向けた研修機会の確保や、キャリアアップ支援策の実施等が挙げられます。
女性のキャリア形成に成功した企業の事例をご紹介
ここからは実際に女性のキャリア形成の支援に成功した企業を取り上げて、事例をもとにご紹介します。
ポーラ・オルビスグループ
ポーラ・オルビスグループは、スキンケアやメイクアップなどさまざまな事業を展開している化粧品メーカーです。ポーラは、創業当初より女性の社会進出に力を注いでおり、女性が活躍できる環境づくりを積極的に行っています。
具体的には、意欲や能力のある社員には、活躍の場の拡大、社員への登用など、性別関係なく個人の能力を発揮できる環境作りを行っています。
さらに、子育て支援の取り組みとして、短時間勤務やフレックス制度、管理職への両立支援制度の説明など、育児世代に対してダイバーシティな取り組みも実施しています。このような結果から、グループ全体の女性管理職比率は、2023年に43.3%と高い数値を記録しました。
参考:ポーラ・オルビス ホールディングス「ダイバーシティと機会均等」
カルビー株式会社
カルビー株式会社は、ポテトや豆系のスナック菓子を製造販売しており、創立70周年を超えた企業です。カルビーでは、「垣根を越えた多様な人財が活躍する企業」を目指しており、最優先の課題として、女性の活躍推進を進める取り組みを行っています。
具体的な目標としては、「女性活躍がカルビーグループの成長を加速する」という理念のもと、女性管理職比率を2030年度に30%超を目指しています。
主な取り組みとしては、女性のリーダー育成プログラムや育児休業復職時セミナーを設けるなど、女性が継続して働きやすい環境を整える活動を行っています。
こうした取り組みにより、徐々に女性管理職の比率も向上し、2024年現在では、24.8%まで上がってきています。
参考:カルビー「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の推進」
株式会社資生堂
株式会社資生堂は、メイクアップやスキンケア商品など幅広く事業を展開している企業です。資生堂の社員の80%以上が女性社員であり、2030年までに日本国内のあらゆる階層における男女比率を50:50になるよう目標を掲げています。
主な取り組みとしては、女性リーダー育成塾「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」を開催しており、女性が自分らしくリーダーシップのスタイルを身につける講義です。実際に受講した241名の女性社員のうち、47%(114名)がキャリアアップに成功しました。
参考:資生堂「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」
女性がキャリアを形成しやすい環境を整えよう
女性のキャリアが築きにくい環境の要因として、女性が働きやすい環境が不足していることや育児や介護とキャリアアップの両立への不安、男女間の給与の格差が考えられます。
企業は、柔軟な働き方を実現できる制度を充実させたり、ロールモデルを育成したりすることが大切です。
女性のキャリアを支援する制度を整えることにより、社員のモチベーションアップにも繋がり、企業の生産性も向上も期待できるでしょう。
キャリアの形成を構築する前に、自社の社員が抱える問題に向き合いながら、ニーズに合った施策を取り入れることが重要です。
【監修】
佐野 真子
キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
企業のセルフキャリアドック導入及び3000名以上の従業員面談、両立支援に携わる。厚生労働省が進めるキャリア形成・リスキリング事業や就職ガイダンス事業に携わり、キャリアデザインセミナーや面談を実施。キャリコンバンク®事業では、企業顧問及び社外相談窓口を通じて、AI時代の働き方についても企業の事業創造とキャリア形成を支援している。
著書
「現代版キャリア革命:昭和世代のための頑張りすぎない生き方を手に入れる方法」
「ビジネスパーソンのための色彩心理活用術 キャリアカラーセラピー®」